20220713 煉獄
① 前日
助手:「先生、次が見つかりました。身元は大丈夫です。」
教授:「本当か?後で面倒くさいのは勘弁だぞ。再チェックはしただろうな?」
助手:「身辺調査は興信所を通さず、裏でやりました。少し、予算オーバー気味ですが・・」
教授:「なあに、研究費はたんまりある。但し、表沙汰になるのだけは駄目だぞ。この「完全ヴァーチャル装置」は万全な形で世に出さなければならないのだからな。出た後に今までのような廃人を一人でも出したらそこでご破算だ。」
助手:「大丈夫です。あの、この前の彼はまだ生きているのですか?」
教授:「生体はな。不思議なのが、脳波が一定のリズムで繰り返したままなのだよ。レム・ノンレムもない。但し、装置を外したらたぶんダメだろう。今まで生きていた奴はいないしな。その次の彼が来るまではデータを取っている。」
助手:「では明日までですね。明日11時に来る予定になっています。」
教授:「じゃあ、9時には彼は片付けよう。その後装置の清掃と換気もしなければな。」
助手:「では、今日はもう帰ります。明日はデータとりで忙しくなるので。」
「完全ヴァーチャル装置」。目と耳だけではなく、脳・脊髄を行き交う電気信号をコントロールし、それをインターネット上の広大な空間とリンクさせ、そのインターネット上のヴァーチャル空間に完全に入り込んだ感覚にさせる装置である。
自分の好みの顔、自分の好みの年齢、そして自分の好みの異性との出会い。そこでは前もって設定さえすれば、どんな夢も適う。国王にもなれれば、アイドルとして多忙を極めることも。
これが完成して、インターネット上にヴァーチャル空間を構築すれば、好きな自分で世界中の人たちとその空間の中で出会うことも出来れば、自分だけの空間で好みの人たちといろいろな交流もできる。しかも触れ合うことも出来れば、ご馳走を味わうことも出来るし、好みの香水の香りを楽しむことも出来る。
ただ現在問題なのが、被験者がリンクしたままバグが発生し、被験者自体がその空間から抜け出せず死亡する事態が続いていることだ。いまだにその原因が特定されていない。
この実験棟ではその原因を調査中で、非リンク時にはバグが生じないため、危険だが被験者がリンクしている間にバグの発生原因を調査しなくてはならない。故に、高額アルバイトを謳って裏サイトで募集を募り、もしいなくなっても足がつかない者を被験者に選んでいる。
澁谷安昌(50歳)、前科一犯で家族は離散。現在住所不定で預金はない。彼が次の被験者である。
② 当日
澁谷:「本当に大丈夫か?10~15万円が手取りってのはありがたいけど、なんの実験なんだ?痛いのとかやだぜ。疲れるのも。」
助手:「いえ、痛いのとかはありませんが、我々以外の人達にこのヴァーチャルリアリティを体感いただいて、その感想や粗を後で口述でよいのでデータを取らせていただいているのです。これが完成すると莫大な売上になるので。その分、報酬も良いのですが。失礼ですが、文章は書けますよね?」
澁谷:「おい、あまりふざけたこというんじゃねえぞ。これでも大学中退なんだ。落ちぶれちゃいるがな。だいたいの用件は分かった。後はあまり口外するなってか。」
助手:「お察しの通りで。まだ開発中ですから。あまり中傷気味なことを周りに言われますとこちらもそれ相応の対処をしなければならなくなります。裁判など。その分、かなり多めにお支払い致しますので。」
澁谷:「ふん、分かってるよ。じゃあ、長めにやってくれや。満額15万もらいたいしよ。」
助手:「それでは、こちらにお掛け下さい。そしてこの脳波ヘルメットをかぶって下さい。あ、少し冷たいですよ。首に送受電気膜を貼り付けますので。あと、急にリンクを切断すると何か不具合が生じるかもしれないので、イスに腕を固定させていただきます。かゆいところなどは今の内に掻いておいて下さい。では固定します。よろしいですか?フェイスカバーを被せると、暫く視界が遮られますけど。はい、では被せます。それでは楽にして下さい。首に最初ちょっとヒリッとした感覚がありますが、やけどはしませんので。ではリンクを開始します。」
③ ヴァーチャル空間
澁谷:「ん?ここは?なんだ、渋谷じゃねーか?久しぶりに来たぜ。え?これがヴァーチャルだって?嘘だよ。たぶん睡眠薬かなんかで寝かしてここに置いていきやがったんだ。こんな現実がヴァーチャルならなんでもありじゃねえか!」
澁谷:「暫く歩いてもやっぱ渋谷だよ。あいつら担ぎやがって。ふん、まあいい。あの研究施設の場所は覚えてるしな。飯でも食って、少し酒でも入れてあの白衣のぼっちゃん、どやしつければ少しは金になるだろう。」
渋谷:「おう、ここがいいぜ。ランチ880円・・・ って、まだ俺金受け取ってねーよな・・・。今いくらあったっけ? なんだこの分厚い財布。俺んじゃねーけど。なんかいっぱいカード入ってんな。カードは足つくんだよな、今日日のご時世。現金はっと?え?万札が・・・44枚!!、なんで俺こんなに金持ってるんだ? ・・・まあいいや。あいつらがこれ突っ込んだんだろ。てことは俺が使ってもいいんだよな。文句言われる前に少し使ってやれ。せこい880円なんて止めだ!」
澁谷:「あった!昔勤めていたときに社長が自慢していた懐石料理屋。44万もありゃ文句はねえだろ。」
澁谷:「う、うめえ。こんなん食ったことねえぞ。いくらするんだこりゃ。単品で15000円!たっけー。もう一個食いてえな・・・、これ覚えてこう。いや、これもマジうめえ!! なんだこりゃ、この日本酒。めちゃ上物じゃねえか!!」
澁谷:「会計は7万4千円。安いな~、また来るわ」
澁谷:「まだまだ金はあるぜ、このままトンズラしても構わねーよな? だって、戻ったって15万だし。」
澁谷:「・・・、やべえかな? 弁護士とか言ってたしな。仮釈で事起したら面倒だからな・・・」
澁谷:「よし、これはヴァーチャルなんだから、この金全部使ったって問題はねーよな。えーと、この封筒に33万入れてっと。よし、コインロッカーに隠してっと。」
澁谷:「はい紛失しました~、金落としちゃったのよね、僕ちゃん。後は電車で品川までっと・・・」
④ 異変
澁谷:「あれ? このJ〇の案内図おかしいぞ。全部渋谷って書いてあるけど・・・ えっ? 何の冗談だ? まさか・・・、いや何かのテレビ番組のどっきりのセットかな? この辺でお笑い芸人の隠し撮りとか? とにかく、一般の客もいるのに失礼だろうが! 案内所で文句言ってやる!」
澁谷:「あの~! 案内図おかしいことになっているんだけど、あれなんだ?」
J〇職員:「現在、このヴァーチャル空間では渋谷駅周辺までしか構築されていません。駅の使用はデータ化されていませんので、ご利用はなさらないで下さい。」
澁谷:「いや、俺芸人じゃないから。まともに話してくれ。」
J〇職員:「繰り返します。現在まだデータ化されていません。」
澁谷:「え? じゃあ、お前は?」
J〇職員:「現在このヴァーチャル・グラフィックは、研究所ホストコンピュータのみの処理のため、情報量に制限があり、警告以外の会話は拒否されます。」
澁谷:「え?」
④ ヴァーチャルリアリティ
澁谷:「そういや、もう3~4時間は経っているのに、まだ昼の1時のままだ。考えてみたら太陽がずっと同じところにありやがる・・・ マジか? おい、すげえぞ!」
澁谷:「ってことはこの歩いている奴らに突然声を掛けても同じ反応なのか?」
澁谷:「よう、ねえちゃん!」
女性:「なんですか?」
澁谷:「いや、金あるんだけどよ! あれっ、行っちまった・・・」
澁谷:「やっぱりだ。誰に声をかけようが「なんですか?」ときたもんだ。本当にこの空間、ヴァーチャルなんだ! すげえ! ここにいるのは俺だけじゃねえか! 遊ばなきゃ損だぜ! ええっと、残りの金は・・・、あれ、また44万に戻ってる! 使い放題じゃねえか!」
澁谷:「へへへっ、久しぶりに豪遊したぜ!!あの姉ちゃんサイコーだったな~!会話が一本調子なのがたまに傷だけどよ・・・、酔っちまったね~、へへへっ」
澁谷:「よし、あの高級ホテルで休憩っと!!」
フロント:「このデータは構築されていません。これより先に進まないで下さい。」
澁谷:「うるせえよ、何度も同じこと言いやがって! 一部屋くらい作ってねーのか?」
警告音:「これより先の空間は未構築です。速やかに元いた空間に引き返してください。」
澁谷:「この先が見てみたいのよ~!! ビービーうるせえっての!」
澁谷:「あれ? 真っ暗になりやがった。やっぱりダメか。しかたねえ。戻るか・・・ え? 後ろも真っ暗・・・」
⑤ 煉獄
教授:「またここで同じ脳波パターンだ。心拍数の上がり方も他の被験者と酷似しているぞ。」
助手:「やはり原因不明です。帯状回の電気信号が同じリズムで繰り返してます。」
教授:「自己記憶の暴走か・・・」
澁谷:「なんだ? 暗かったと思ったら、ここはどこなんだ? いや、来たことがあるぞ、ここ。そうだ、あの女を井戸に投げ込んだときの・・・、もう15年も前だぞ・・・ これもヴァーチャルだってのか? え、これはバレてないはず。あの女、今も行方不明のままなんだから。」
澁谷:「あ、あの井戸、そうだあの時、冬で・・・。寒い・・ あのときのままだ・・・」
女性:「こんにちは」
澁谷:「ひっ、お前は・・ なんで、 そ・そうか・・ これもヴァーチャル・・・ ってことは、今回のこのバイトは仕組まれたってことか? なんであいつらこの女のデータ持ってるんだ? そっくりじゃねえか!」
女性:「こんにちは、澁谷さん。あの時はどうも・・・」
女性は井戸の前でしゃがみこんだ。引きつった顔で澁谷は後ろで硬直している。
女性:「澁谷さん、煉獄ってご存知? ここがそうなんだけど・・・」
澁谷:「おれは何も知らないぞ。テメーなんか知らない。なにもゲロしやしねーぞ!」
女性:「ううん、何もしなくていいの・・・ 何も起きないし、何もしなくなるのがここだから・・・」
澁谷:「おい、実験屋の先生よ!! 聞こえてんだろ!! もうお開きだ!! 早くここから出せ!!」
女性:「あなた、まだわからないの? ここは煉獄。私が祈ったの。あなたがここに来るように。あなたの意識は捉えたわ。ここに引き込んだ。ここには時間が無いの。永遠すらね。」
澁谷:「お前、消えろよ! ここは俺のヴァーチャル空間だ。俺の好き好みの人間だけがいる世界だ。お前なんか知らないし、俺を追い込もうったって無駄だぞ!!」
⑥ 煉獄
女性:「消えていいの? 話し相手、居なくなっちゃうよ?」
澁谷:「不愉快なんだよ! おい、このデータ消せよ!」
澁谷:「ここは? どこだ? またバグってんのか? アスファルト・・だよな? どこまで続いてるんだ? おい、いい加減、この世界を終わらせろ!!! もう飽きたんだよ!!! おい!!」
澁谷:「そういや腹も減らないし、喉も渇かないな。暑くもない・・・、あれ? 感覚がない・・・、眠くもない・・・、まあいい、リンクが切れるまでの間、暫く散歩して時間潰そう。暇だしな・・・」
澁谷:「行けども行けども同じような霧か・・・、右に行ってみるか・・・、しかし何時になったらこのリンクきりやがるんだ。体感的にもう3日は経ってるぞ。バイト時間は8時間未満って書いてあったのに・・・」
⑦ 煉獄
澁谷:「おかしいな?こんなに長いのか?いくら歩いても果てなんかないし、景色も変わらない。さすがに飽きたぜ・・・ 全く眠くもならないから暇潰しに歩いているけど・・・ いい加減リンクを切れよ・・・、体感的にはもう1週間以上だぜ・・・」
女性:「澁谷さん・・・」
澁谷:「な、なんだ、てめーか! まあ、許してやるよ、ずっと話さないのも身体に悪いしな。」
女性:「・・・あなたの体。処分されちゃったよ・・・」
澁谷:「は? て、てめえ何いってるんだ?」
女性:「おかしいと思わない? あなたここに来て、現世で1週間以上の時間が流れているのよ。水も食事もしてないのに・・・・」
澁谷:「まあ、こ、これは夢みたいなもんだからな。そりゃ時間が長く感じるんだろうがな・・・」
⑧ 煉獄
女性:「だから、もうあなたは処分されているの・・・。どの道、あなたが処分されても誰も分からないから。」
澁谷:「・・・ふ、ふん。分かってるよ。そうして泣き叫んだところで白状させようって魂胆だろ。何度もいうが、てめえなんて知らーし、俺は何もやっちゃいねーんだ。」
女性:「なにもやっちゃいない・・・? 私の全財産を奪って、首絞めて殺しておいて・・・ 何もやっちゃいない・・・?」
澁谷:「はっ、は? どうしてそれを?」
女性:「なにもやっちゃいないですって?」
⑨ 煉獄
澁谷:「は! また、ここだ。この井戸。この井戸に来るのはもう10回は越えているぞ。ってことは・・」
女性:「澁谷さん・・・」
澁谷:「もう分かった、もう止めてくれ! もう殺さないでくれ! 死ぬ苦しさは分かるんだ!! もうゲロする。俺が殺した!!! もうこれでいいだろ!!! もうリンク切ってくれ!!!!!」
女性:「まだ・・・わからない・・・? ここが煉獄だってことを!!!!!!!!!!!!!!!」
澁谷:「うぇぇぇぇぇ~、ぐぶっ、う・ううぅぅ・・ ・」
⑩ 煉獄
澁谷:「アスファルト・・・。へへへへっ、まただよ。まただよ・・・、何回繰り返すのかな~? 次は何時死ぬんだ? 今回は2ヶ月位、彷徨ったけど・・・ 何時終わるのかな~・・・」
⑪ 煉獄
澁谷:「アス・ルト・・・」
⑫ 煉獄
澁谷:「い・・ひひひ・・・」
⑬ 煉獄
澁谷:「・・・・ぅっつぅ~・・・」
⑭ 煉獄
・・・
⑮ 煉獄へ
ひたすらアスファルトの上を歩く。歩かなくても良いが、歩く以外のことがないから。眠ることも出来ないから。そして、唯一のイベントが、自分が殺されること。
それが無限に続く。それが「煉獄」。
いつかは終わる? 終わらないよ、安〇信三。
安〇は生きている。というか、あんな茶番「暗殺劇」を信じている人間がいるのか?
https://ameblo.jp/sunamerio/entry-12752373077.html
「生きている訳ないだろ! もし裏社会ってやつがあって、なんで安〇を生かしておくんだよ? なんのメリットがあるっていうんだ?」って?
まず、森友・加計問題、レイプ問題、裏金問題・・・、こいつがやった犯罪はあまりにも多すぎる。これを隠蔽するには「死んだ」ことにして、被疑者不在として強引に終わらせるしかない。
ならば殺したほうが良いことになるが、世界史を学ぶとこのような傀儡極悪人はみんな後で報酬を貰って豪遊している。
ヴィルヘルム2世は第1次世界大戦を起したご褒美にドールン城という大邸宅を与えられ、貴族として豪奢に暮らした。
アドルフ・ヒットラーは第2次世界大戦を起したご褒美にアルゼンチンとパラグアイで豪遊している。
究極売国奴「ナポレオン・ボナパルト」はテメーの生まれ故郷のすぐ隣にある風光明媚な観光地でしばらくバカンスを楽しんだ。
何故かって?当たり前だろう。たくさんの人達から恨まれ、非難され、下手したら殺されかねない売国行為を行い終いにはすべての罪を被せられて殺されるならば、誰もしり込みしてその役を引き受けたがらなくなる。
「勘違い」大金持ち野郎に言われたとおり計画を実行した暁にはものすごく豪華な生活が待っているという確証でもない限り、周りで見ている傀儡ゴキブリ売国奴はみんなその役を他人に押し付け合い、逃げるだろう。
「ほら、見てみろ。安〇は今、こんな楽園で余生を楽しんでいるのだぞ。」と見せない限り、ビビリニゲゴシーごときびびりゴキブリなど、チンパンジーよりも光速で逃げ出す。
安〇が豊かに生きていることは、必須事項なのである。
⑯ このままだと・・・
しかし、残念ながら安〇はそう長くはない。これだけの怒りや怨念を喰らってもし生きていることがばれたら、有意識・無意識、非業の死を遂げた魂、それにゴキブリごときに迷惑をかけられる勢力、それらが殺到して、安〇ごとき脆弱な精神は一瞬で弾けるだろう。
私が心配しているのは、こいつが死ぬことではない。このままだと、こいつがあまりにも早く死に、すぐにその魂が消滅してしまうことだ。
永遠に償わさせなければならない。
こいつの魂を煉獄に送るには、たくさんの人達の怨念と祈りが必要である。怒り・絶望・無念、それらを共有する今苦しんでいる人達、絶望の中命を断たれた人達。たくさんの人達が祈るのにしばらくの時間が必要である。
安〇がこれを読んでいるならお前に言う。もう少し生きていろ。
~ 2022年07月13日 著 ~