ごまちゃんの世界史ノート

私の目的はたった一つ。「日中戦争の阻止」である。故にこのブログを立ち上げた理由も私の行動も、全てここに帰結する。現在の強引な憲法改正論。考えてみてほしい。今すぐやることではない。コロナパニックなどで疲弊した経済、市民生活をどのように回復させるかが急務なのに、なぜ軍事費を過去最大にして、福祉を最小にしているのか。騙されていては全てを失う。故にまずは知ってほしい。

20220715 風地大介物語

20220715 風地大介物語

 

「いじめ」をテーマにした短編小説です。かなり暇なときにでも読んでみてください。

 

 

 


① お小遣い

 

大津隆:「ねえ、お母さん。もう俺中2だぜ。お小遣い800円じゃ足りないよ。」


母:「う~ん、でもねえ。うちの家計はそんなに良くないんだよ。私一人で働いてるんだから。」


大津隆:「でもさあ、みんなもっと貰ってるよ。もうちょっとさあ・・・」


母:「・・・分かった。じゃあ、水曜日のパート、もう少し時間延ばしてもらうわ。でも水曜日の帰りは9時越えちゃうからね。お風呂の準備と朝に書置きした買い物はやってもらうよ?」


大津隆:「ほんと? えっ、いくら?」


母:「中2になったからね・・・、じゃあ、2千円でどうだ!」


大津隆:「ほんと、ほんとに!!ありがとう!!」

 

 

母子家庭の大津家。母一人、子一人の二人きり。貧しい生活ながら二人で頑張っている。ただ、今日のこの会話で全てが崩壊するとは夢にも思っていなかったが。

 

 

 

② 不良グループ

 

金原:「おい山田。テメーの上納金は7000円って言ったよな? なんで5500円しか持って来ねーんだよ。テメー舐めてんのか?」


山田:「すみません。金づるの一人が転校しちまったので。」


金原:「じゃあ、来月は差額分で9000円な。早く新しいのみつけねーと、テメーどうなるかわかってんだろうな。」


山田:「すみません・・」

 

 

大津隆が通う「大事山中学」を仕切っている不良のトップが3年の「金原泰夫」。数十人の不良を束ね、上納金と称して不良たちから金を巻き上げている。その金の半分は反グレ組織に上納し、残りで中学生にも関わらず、ソープランドなどで豪遊している。
不良達は毎月決まった上納額を集めるため、それぞれがいじめをしている生徒から金を脅し取っていた。

 

 

 

③ 標的

 

山田:「くそ、金原の野郎。テメーは何にもしねーで遊び狂いやがって。俺たちだって遊びてーんだっつぅの!」


木村:「どうする? 来月9000円集められなかったら、俺たちがリンチだぜ・・・」


山田:「って言ってもよ~。井上から巻き上げんのもこれ以上はな~・・・。誰かもう一人奴隷探さねーとな~。」


木村:「これ以上派手にやると、ばれた時やばいぜ・・・」

 

 

こんな時に、教室で浮かれ気分でいたのが大津隆だった。小遣いが2000円になったことが嬉しくて、友達に自慢話をしていたのである。

 

 

大津:「まあ、ちょっと家事手伝うって約束しちゃったけど、今月から2000円に小遣い増やしてもらえたんだぜ。まあ、俺の交渉術かな~!」


山田:「おい、木村。」


木村:「はい、決まり~」


山田:「お~い、大津、ちょっとこっち来いや。」


大津:「な、なに? 山田くん・・・」


山田:「何?じゃねーんだよ。ちょっとツラ貸して~。すぐ済むから。じゃあ、校舎裏の特等席にご案内~」

 


大津:「もうすぐ、5時間目はじまっちゃうよ・・・?」


山田:「大津くんさ~、さっき羽振りのいい話してたじゃない?そしたらさ、僕らも一緒に喜びたいわけよ。だからさ~、僕らにもその幸せ分けてよ。ほんの2000円でいいからさ~」


大津:「え?いや、これはぼくの大切なお小遣いで・・・」


山田:「大津くんさ~。根性焼きって知ってる? ちょっと右手の手首にハンコ押すだけだけど。」


大津:「え? 何?」


山田:「んじゃ、木村く~ん。」


木村:「ちょっと右腕出せよ。そしてこのタバコをっ!」


大津:「ぎゃっ、痛い!!」


木村:「これでハンコ一個押せました~。大津、テメー舐めてるとそのハンコ両腕じゅうになるぜ」


大津:「痛い・・・、何で?」


山田:「ねー、大津くん。この学校ってさ~、安全に暮らすにはやっぱり多少献金って必要なのよ。だ・か・ら、自主的にお金を献金してくれたらハンコは増えないんじゃない?」


大津:「ひどい・・・」


山田:「木村、分かってねーようだから、あと2つ押してやれ」


大津:「ぎゃ~!!! やめて、やめてよ!!!」


山田:「じゃあ払うよな? はい、ありがとね~」

 

 

 

④ エスカレート

 

山田:「金原さん。これ今月分です。」


金原:「おお、お! 9000円。すげえじゃねえか!やりゃ出来んじゃねーか?」


山田:「かなり無理したんで、毎月は無理ですが。」


金原:「ああ、分かってるよ。来月からは7000円でいい。ただ、無理する時は言えよ。手下(てか)出すからよ。」


山田:「ありがとうございます。」

 

木村:「よし、これで毎月分は何とかなるな。ちょっと今月は俺たちも自腹削ったしよ。」


山田:「何か腹立つな。一生懸命集めても俺たちに取り分無しだぜ。」


木村:「もうちょっと金集めうまく行ったらな~・・・」


山田:「・・・それだ、木村。大津の野郎完全にビビッてやがるから、追い込みかけりゃもっと金を出すぜ。そうだ!新聞配達のバイトやらせてその一部を巻き上げりゃいいじゃね~か!」


木村:「そうすりゃ俺たちもかなり遊べる銭入るかもな、やろうぜ!」

 

 

山田:「大津く~ん、ちょっと裏まで。」


大津:「何ですか?今月分は支払いましたけど・・・」


山田:「大津くん、そんなに固くなるなよ~。とってもいい話持ってきたんだからさ。君にもお金が入って、僕たちも潤うんだ。お前さ、明日から新聞配達のバイトやれよ。」


大津:「え? やったことないよ・・・」


山田:「馬鹿かオメー。だからやり始めろっていってんの!物分り悪いとハンコ押しちゃうぞ~。新聞屋の前に行って、バイトしたいって言や何とかなんだろ!」

 

 

こうして大津隆は新聞配達を始めた。最初は朝刊だけだったが、味を占めた山田らはエスカレートし夕刊のバイトもさせた。

加えて今まで金を巻き上げていた井上勇樹にも新聞配達の仕事を強要し、その金のほとんどを巻き上げ始めた。上納金は7000円。羽振りがよくなったことを後で責められるのもまずいと思い、途中から上納金を12000円に自ら上げた。
しかし、数万単位の小遣いが手元に残り、中学2年生にも関わらず、毎月数万円を遊びに浪費した。
一度味を占めると、際限が無くなる。叩けば出る打ち出の小槌のように大津隆を使役しだした。

 

 

 

⑤ 発覚

 

山田:「おい、このバイクカッコよくない?」


木村:「でも、これ40万以上するぜ。無理無理。」


山田:「俺たちには金づるの「財布くん」がついてるじゃねーか!」


木村:「でもよ・・・、さすがに40万はまずいって・・・」


山田:「最近ってよ、カード詐欺とかあるじゃん。だから、あいつの母親のカードから40万円引き出させて、あいつに知らないって言わせれば、どっかでカードが複製されたって思い込むんじゃね?」


木村:「でもよ・・・額がな~」


山田:「やってみなきゃだろ!俺たちの夢(バイク)が懸かってんだぜ!!」

 

山田:「お~い、大津、いつもの所な。」

 


大津:「もう無理です。出来ません!!」


山田:「おっ!えらくハンコー的じゃん!・・・オラァッ!!」


大津:「うっ、ゲホゲホ・・・」


山田:「今まで優しくしすぎたみてーだな!」


ドスッ、バタンッ、バキィ、グシャ・・・・
大津:「う・う・う・・・」


山田:「あ~、手が痛て~。こんな苦労させられたんだ。次は根性焼きといきましょうか!!!」


大津:「や、やめ・・・」


木村:「じゃあ、今日は10個押しちゃうね~」


大津:「ぎゃぁ~~~~!!!!」


山田:「おい、明日までにテメーの親のカード持ってこい。幾らか引き出すからオメーも一緒にな。」

 

 

こうして大津隆は分けもわからず、カードを持ってATMで40万円を引き出した。カメラに移らないように、山田らは少し離れた路上でそれを見ていた。そして40万円全額を巻き上げたのである。
すぐに母親にばれた大津隆は母親の前で泣いた。

 

母:「お前、何をやったか分かってる? どうしたの、この下ろしたお金。」


大津隆:「・・・・」


母:「お母さん、どれだけミジメな思いか分かる? このお金無いと、来月の家賃も払えないのよ。どれだけ苦労しているか分かる? どれだけ、職場でも辛い思い・・・・、分かる!!!」


大津隆:「(もう、無理・・・、もう俺、いない方がいいや、母さんも苦しめて。こんな辛い毎日なのに、周りももっと不幸になって・・・、死のう、楽になろう・・・)」

 

 

大津隆は、その日の内に近くのマンションの外階段から飛び降り自殺をした。それはすぐに学校に伝わり、学校ではその善後策について話し合われた。どのようにして火消しするかを。

 

 

 

⑥ 隠蔽

 

金子校長:「森山先生、大変まずいよ。このままだと金原さんの息子さんにも累が及ぶよ。誰かが訴えたり、騒いだりしたら。」


森山:「なんとかしないとやばいですよね。」


金子校長:「黒茨教育長からもせっつかれててね。どんな力技でもいいから隠蔽しろとどやされたよ。」


森山:「ってことは、後ろ盾は大丈夫ですよね?」


金子校長:「ああ、今回は反共連合さんも動いてくれるそうだから。メディアとかは大丈夫だとは思うけど。」


森山:「なら、後はうちのクラスを黙らせればいいだけじゃないですか。いいですよ。ガキ共相手なら、いくらでもゴリ押しが利きますから。」


金子校長:「じゃあ、なるべく穏便に頼むよ。」

 

 

こうして、何としてでも「いじめは無かった。」という結論に収束させるべく、さまざまな勢力が動き出した。生徒たちの心のケアなんてものではない。力技で封じ込めることしか念頭に無い。

 

 

森山:「えー、今回はみんなも知っての通り、我がクラスの男子生徒がマンションから転落死した。まだ調査中ではあるが、もし自殺ならば、何か悩みを抱えていたかもしれない。君たちの先輩の3年生はこれから受験に向けて邁進しなければならないこの時期に、あまり動揺させて悪い結果にならないように配慮しなければならない。これから、一人一人、きちんと先生が話を聞く。全てが明らかになるまでは、勝手な憶測で話を広げないように。学校の評判が下がれば、迷惑を被るのは君たち在校生なのだから。
じゃあ、まず平井、指導室に来い。」

 

 

 

⑦ 平井智子

 

平井智子:「はい・・・」

 

森山:「平井、お前は大津と小学校も一緒で結構仲がよかったろ。何か聴いてないのか?」


智子:「先生・・・ 大津くん、ずっと悩んでました。お金巻き上げられてるって。先生にも相談したって。」


森山:「ん? まず、誰に巻き上げられていたかを聞いたのか?」


智子:「はい、同じクラスの山田君と木村君です。アルバイトもさせられて、ほとんどのお金を巻き上げられてるって。」


森山:「ん~、その証拠はあるのか?」


智子:「え? 証拠?」


森山:「例えば、文章で残したものがあったり、会話の録音があったり」


智子:「いえ、ただ聞いただけです。」


森山:「じゃあ、証拠はないんだな? 俺は彼から相談されたことは無い。たぶん、言おうとしているって言ってたんじゃないか?」


智子:「いえ、ずっと悩んでました。どんどん苦しそうに・・・」


森山:「記憶ってのは曖昧なものだからな。たぶん、俺に言ったのかもしれないけど、そんな苦しそうに言われたことはないから、忘れたのかもしれないがな。とにかく、証拠がないんじゃ確定は出来ない。後で山田達に確認はするが。」


智子:「あ、あの、私が言ったとは言わないで欲しいんです。」


森山:「ならなおさら確証を得ることなんてできないじゃないか? 俺が欲しいのは彼が命を断った原因の確証だからな。そんなふわふわしたものじゃ確定できない。分かった。君の話は考慮する。戻っていいぞ。次に廣田に来るように言え。」

 

 


⑧ 廣田葵

 

智子:「葵、先生呼んでる。」


廣田葵:「ねえ、どうだった? いじめに対処してくれそう?」


智子:「それがね・・・。まず、行ってみて。」

 

森山:「おう廣田。平井の話はどうもふわふわしていてな。お前は何か知っているのか?」


葵:「え? 先生も知ってたんじゃないんですか? 大津くんがあんなに苛められていたのに。」


森山:「友達同士のじゃれあいってのは、傍から見るといじめにも見えるからな。」


葵:「先生、大津くんかなりお金を巻き上げられていたんですよ!知らなかったんですか?」


森山:「見たのか?」


葵:「だって、山田君たちに時々体育館の裏に呼び出されて、タバコの火を押し付けられたり、お金を巻き上げられたりしてるのみんな見てるんですよ。先生に何人か相談しに行ってたじゃないですか?」


森山:「その証拠はあるのか?」


葵:「えっ?」


森山:「確たる証拠も無く、こんないじめとか自殺みたいな大事に簡単に口を挟むわけにはいかないんだ。俺が欲しいのはそのときの写真とかがあるかないかなんだ。お前は持っているのか?」


葵:「ないですけど・・・」


森山:「なら話だけだな。証拠も無しに、話だけでは確定が出来ない。彼らがふざけあっているという話は何回かは聞いたが、それがいじめだという確証がどこにある?」


葵:「先生?」


森山:「山田達にはあとから十分話を聞く。その前に証拠が欲しいんだよ。分かったか? なら次は渡辺を呼んできてくれ。」

 

 


⑨ 渡辺友美

 

渡辺友美:「葵、どうだった?」


葵:「何、あいつ? なんか、気持ち悪かった・・・ 呼んでるよ。」

 

森山:「おう渡辺。してお前はどうだ? 何か彼の周りで自殺するようなことがあったと思うか?」


友美:「先生、大津君も女子の何人かも相談に行ってましたよね、先生のところに。覚えてないんですか?」


森山:「・・・悪ふざけがときどきひどいかもって話は聴いたが。」


友美:「大津君は最後には40万円も巻き上げられて、警察に行くかどうか悩んでたんですよ。先生のところに相談に行く前に他の女子に話してたんですから。」


森山:「・・・ それは初耳だな。彼はそんなことは一言も俺には言わなかった。イ・ワ・ナ・カッ・タぞ。」


友美:「・・・どういうことですか?」


森山:「みんないじめはなかったと言っているんだ。そんなとんでもない話は初耳だ。後で山田達に確認してみることにする。」


友美:「やって下さい。大問題ですよ!!」


森山:「・・・下がってよし。」

 

 

 

⑩ 談合

 

森山:「で、山田、木村。いじめはやったのか? 金は巻き上げたのか?やってないだろ?な、そうだろう?」


山田:「やってないよ。」


森山:「おし、そうだろう。もう帰っていいぞ」


山田:「はい、どもっ!」


森山:「おい山田、 やりすぎんなよ・・・」


山田:「へ~い」

 

 

こうして強引に「いじめは無かった」という結論に達し、PTAには「複雑な家庭環境によるストレスによる自死」と報告された。受験生を抱えた親や風評被害を気にした親はなるべく穏やかに話が収まることを望んでいたため、その報告に多少の違和感を持ったが、それ以上追求するものはいなかった。
しかし、そのいじめを目の当たりにしていた生徒達は先生や父兄の態度に強い嫌悪感を持ち、人間不信に陥りそうになっていた。

 

 

 

⑪ 歓喜

 

山田:「おい、逮捕どころかお咎め無しだぜ!!」


木村:「やべえ、大津死にやがったのにな!!」


山田:「40万の内30万、金原にやったらよ、「あんまり、無茶するんじゃねえぞ」ってよ。次なんかあったらまたもみ消してくれるってよ!!」


木村:「え? ってことは、俺たちやり放題じゃねえか!」


山田:「見たか、クラスの奴らの顔!みんな俺たちが偉い目にあうと思ってたんじゃねえか? 当てが外れてみんなしょげてやんの!! うははははははははっ」


木村:「じゃあ、今度はクラスみんなから献金してもらうってか!はははははははははははははっ」

 

 

真面目に生き、辛い目に遭った人達が悲しみ、ろくでもない人間が高笑いする。今回の事件で学校側も味方でいてくれると確信した山田たちの行動はさらにエスカレートしてゆく。とうとうその魔の手は女子にまで及び始めた。

 

 

 

⑫ 恐怖

 

友美:「爽彩たち、またトイレに連れ込まれて恫喝されたの?」


葵:「ねえ、怖いよ。どうなってんのこの学校? 真穂のグループなんかさ、今度裸の写真撮るって脅してたよ・・・」


友美:「智子は?」


葵:「また過呼吸起して欠席だって。あの件以来、徹底的に真穂とか璃夢にいじめられてるじゃない? なんで目の敵にするのかな? 大津くんと仲が良かったから?」


友美:「体のいい口封じってやつかな?」


葵:「ええっ! あいつらも森山とグルだってこと? ねえ友美、怖いよ~。」

 

鈴音:「ねえ、葵、ちょっとこっち来て~。真穂たちが呼んでるからさ。」
葵:「えっ?」


友美:「葵、一緒に行こうか?」


葵:「え、うん・・ でも、逆に後が怖いから、ちょっと行ってくる。」

 

 

葵:「何?」


真穂:「あんたさあ~、ちょっと生意気っていうか、気に入らないんだよね~。ねえ、明日っからさ、一緒にトイレに行こうか?」


葵:「ううん、いい。いらない。」


真穂:「あんまり私たち舐めないでね~。行っていいよ。」

 

友美:「葵、大丈夫?」


葵:「何かこの学校変だよ、キモい・・・」

 

 

愚か者から自制心という箍(たが)を外せば、後は暴走するだけ。無駄に自尊心を持っていればなおさらたちが悪い。
2学期が始まり、そんな最悪の雰囲気のクラスに一人の男子生徒が転校してきた。
名前は「風地大介(かざちだいすけ)」。真面目そうに制服は校則どおりだが、身体が大きいため、制服も大きい。この最悪な状況の中で、どのように巻き込まれてゆくのか・・・

 

 

 

⑬ 暴風

 

風地:「こんにちは。風地大介といいます。親の都合で中途半端な時期に転校となってしまいましたが、宜しくお願いします。」


森山:「ということで、これからこのクラスの一員になる。みんな仲良くするように。」


山田:「木村、あれどうだ?」


木村:「ナリはでかいけど、大丈夫っしょ。俺たちに逆らえねーよ。」


山田:「じゃあ、やっぱり少し献金してもらう。この学校での安全のために・・・」


木村:「じゃないとハンコ押しちゃうからね~、いししししししっ」

 

 

山田は放課後、いつもするように風地を体育館裏に連れて行った。

 

山田:「風地くんさ。なんかスポーツやってた?」


風地:「卓球くらいかな? あんまり得意じゃないから。」


木村:「帰宅部ってやつかな~? 体大きいのにねぇ。」


風地:「ねえ? 学校でタバコ吸っちゃダメじゃない? っていうか中学生なんだから、タバコはさ。」


山田:「うるせえよ。それよりさ、風地くん。友達になりたいんだよね、俺たち。でさぁ、この学校っていろいろ「しきたり」ってあってね。安全に暮らすためにはちょっとした献金って必要になるわけよ。風地くんってさあ、今お小遣いっていくら貰ってんの?」


風地:「う~ん、7000円くらいかな?」


木村:「え? 結構貰ってんじゃん。」


風地:「そうでもないよ。学校の成績がもっと上がったら、もっと貰えることになってるんだ。」


山田:「お坊ちゃんってか? 羨ましいね。じゃあさ。これからもっと成績が上がるよ。俺たちと付き合えばさ。ならその少ない7000円って献金してもらえるよね?」


風地:「え? ダメだよ。これで今日参考書買わなきゃいけないから。」


山田:「風地くんってさあ。根性焼きって知ってる? おい、木村」


木村:「ねえ、風地くん。ちょっと右手貸してよ。」


風地:「え? こう?」


バキィッッ!!
木村:「う・・ぐっ・・・」

 

木村は強力な右フックを喰らい、そのまま後ろの壁に叩きつけられ、失禁したまま気絶してしまった。両方の鼻からは大量の鼻血が流れ出ている。

 

山田:「木村!! てめえ、何しやがんだ!!」


風地:「右手貸してって言ったから出したんだろうが。さて、献金だかなんだかほざいてたが、もう一回言ってもらおうか。」


山田:「てめえ!俺たちに手ぇ出してただで済むと思ってんのか?」


風地:「その前に、てめぇがどうなるか考えたほうがいいんじゃねえか?」


山田:「何ぃ? 俺のバック・・」
ドコゥッツッ

 

風地の回し蹴りが顔面に炸裂した。有無を言わさぬ暴行になす術がなかった山田は血だらけで痙攣し、失神していた。

 

風地:「てめえらのことは十分聞いてるよ。これから俺のクラスで少しでもくだらねえことやりゃぁ、これだけじゃ済まさねえからな・・・」

 

 

 

⑭ 集団リンチ

 

赤井:「金原さん、大変です。山田と木村がやられました。二人とも鼻の骨が折れてます。」


金原:「なにぃ! 誰がやりやがった!!」


赤井:「転校生の風地ってヤツです。教師が発見したときには周りにタバコが落ちてて、何人かが写真撮ってたみたいで。そのまま騒ぎにならないように隠蔽したみたいです。」


金原:「じゃあ、その風地って野郎はお咎め無しってことだな?」


赤井:「普通に下校していきました。」


金原:「おい、ずいぶん生きのいいのが入ったじゃねえか。ただ、この学校のルールが分からねえなら、教えねーとな。教師が無視するなら丁度いいじゃねえか。おい、兵隊10人集めろ。おい、赤井、佐藤! お前らで、ボコボコにして来い!」


赤井:「え、いいんすか? でも10人でやってもし死んじまったら・・・」


金原:「ばかやろう、殺すんじゃねえぞ! 何箇所か骨折るくらいで済ませ。お前それでなくてもやり過ぎんだからな。死ななきゃこっちで後始末する。自殺したって大津みたいに隠蔽できんだからな。」


佐藤:「でもやりすぎたら今度は風地が大津ったりして~、ぎゃははははははははは」


金原:「とにかく殺さない程度にいたぶって来い。なるべくサツを間に入れるなよ。」


赤井:「わっかりました~!おし、後8人行きたい奴いるか~!!!、お~し、決定!」

 

 

翌日の放課後、森山勧の手も借りて、体育館周囲に誰も近づけさせず、そこを風地の処刑場にすることにした。グループの中でも喧嘩っ早いメンバーを集め、そこに風地を呼んだ。

 

 

 

 

中尾:「大変です。金原さん」


金原:「どうした?まさか、殺したんじゃ・・・?」


中尾:「違います。全滅です。10人全員病院送りです。赤井と佐藤は肋骨がバラバラです・・」


金原:「なんだと!!10人全員・・・」

 

 

 

⑮ 金原、起つ?

 

金原:「よし、分かった。三人見繕っとけ。俺とあと三人であの風地をヤる。」


中尾:「とうとう金原さんが! お願いします、俺も参加させてください!!」


金原:「ああ、徹底的にな・・」


中尾:「あれ? 金原さん、武者震いっすか?」

 

 

それから2ヶ月間、金原は学校を休んでいる。もちろん山田も木村も不登校となり、学校の雰囲気は様変わりした。

 

井上:「風地くん、やっと腕立て伏せ30回できるようになったよ。」


風地:「お~、すごいじゃん。」


井上:「風地くんって何回だっけ?」


風地:「ん?100を3セット。」


井上:「・・・」


小杉:「風地くん、今度朝一緒に走ってもいい?」


風地:「いいけど、結構ペース速いよ。10~15kmくらい走るし。」


小杉:「いいんだよ。毎日走って、だいぶ体力がついたから、どのくらいついて行けるかバロメーターになるから。」

 

 

公式には風地は無罪である。でも誰もが知っていた。この学校に巣くっていた奴らを誰が壊滅させたかを。男子は今の内に少しでも強くなりたいと思い、それぞれが身体を鍛えだした。そしてことあるごとに戦い方の話で盛り上がっている。

 

 

 

⑯ ランチタイム

 

休み時間は男子と話をしているが、何故か風地は昼ごはんを必ず女子と一緒に食べるのである。といって誰か好みの子がいるわけでもないようで、その都度、いろんな女子と食べている。
この前はクラスでもあまりしゃべらない女子となんだか聞いたことも無い小説の主人公の話で盛り上がっていた。実に不思議である。
いつの間にか女子に「風(ふう)ちゃん」と呼ばれていたが、子供みたいで恥ずかしいと言ったら、「ふーつぃん」と呼ばれだした。風地はこの呼ばれ方が気に入ったみたいで、喜んでいるようだ。

 

友美:「ふーつぃんってさあ、この女性知ってる? 東大卒で弁護士なんだ。私の憧れ。堂々としていて、私が理想とする女性像なんだよね~。かっこいいんだ~。」


風地:「ふ~ん。」


友美:「学生の時から、もうこうなりたいってビジョンがあって、それを実現させるために学級委員長とか率先してやってたんだって。すごいよね!」


風地:「んじゃあ、友美も目指せばいいんじゃね?」


友美:「え? 私が? ・・・無理だよ。」


風地:「憧れてんなら、一歩でも近づきゃいいじゃん。」


友美:「え?」

 

 

昼食も終わり、友美は呆然と前を見ていた。「一歩でも近づくって?」。
ついこの間まで、絶望の中にいた。だから、未来など遠くを見やることなど考えもしなかった。それなのに今は本当になりたい最高の自分に思いを馳せている。
呆然としていたのはまずは考える土台から構築しなければならないからだ。未来を夢見てそれを実現させるための「プラットフォーム」など持ち合わせていない。心の中で、どこから手をつけていいか分からなかったのだ。

 

友美:「(まずは学級委員長・・・。無理だよ。この前まで荒れ果てていたこの学校で女子が学級委員長や生徒会長をやるなんて。ふーつぃんくらい押しが強くなきゃできないよ。でも・・・)」


友美は数日間ずっと考え込んでいた。出来る・出来ない、出来る方法。そして、少し矛盾した考えに囚われ、悩みだした。


友美:「(ふーつぃんがもし手伝ってくれたら。・・・でも、自分が自立しようとしているのに、人を頼るなんてそんな矛盾した恥ずかしいことなんて頼めるわけもないし・・・。でも、もしふーつぃんが手伝ってくれるって言ってくれたら・・・。)」

 

 

こんなふうにみんなが前を向き、進み始めようとしていた時、その裏ではある姦計が話し合われていた。
街の大物有力者「干野」に金原の父親が泣きついたのである。

 

 

 

⑰ 悪評

 

干野:「ああ、ごくろうさんですな、黒茨教育長。実はですわ。あの~反共連合の椿原さんとこの、何ちゅ~たかな~? あ、金原さんって言ったかな? 彼の息子さんがなんだか暴力転校生に苛められて不登校になって困ってるってんですわ。だからね。お宅のところで、その転校生をよそに移すなり、処罰するなり、なんとかして欲しいってわけですわ。細かいことはうちの伊豆見田くんにまかせるから。
ちゅうことで、伊豆見田くん。黒茨教育長を手伝ってあげなさい。私はチャバレーでコレを待たしてるから。じゃあ、後はよろしく頼むね。」


伊豆見田:「・・・」

 

 

まもなく、PTAや父兄の間で暴力不良転校生のデマが流された。ひどいいじめを繰り返し、不登校生徒が激増していると。このままでは再び生徒の自殺事件が起きかねないので、この転校生をどう処分するかを父兄と共に学校側で話し合うことになった。

 

智子:「だから、違うの!! お母さん聞いて! 風地くんが来てからみんな凄く平和になったって喜んでるんだから。お母さんってっ!!」


母:「でもねえ、PTAの通達で、その子かなり問題児らしいのよ。智子、あまりそういう生徒と仲良くしたらだめよ。来年受験控えてるんだから。森山先生だってあなたの成績のこと十分考えてくれて、内申点上げてくれるって。だから変なことに首を突っ込まないで大人しく勉強しなさい。」


智子:「違うの! お母さん、誰を信用してるの? 違うの、ち・・うっ・・うっ・うっ・・・」

 

過呼吸がぶり返した。最近は収まっていたのに。またあの地獄のような絶望の中のいじめが始まる。無意識に想像してしまったのか、恐怖が心を縛り上げ、声も出なくなってしまった。

 

 

 

⑱ 新学期

 

風地たちは無事3年生の新学期を迎えた。クラスは2年の時のまま。風地は今も学校にいる。
ただ、ちょっとした事件がこの街で起こった。この街の有力者の「干野」が不正献金の罪で起訴され、その代表の座から引き摺り下ろされてしまったことだ。そんなこともあり、風地への対処がいまだに保留されたままとなっている。
一学年上の金原たちは学校に来ることなく卒業してしまった。山田と木村は風地がいなくなると聞いて一度は学校に来たが、逞しくなった井上達に呼び出されボコボコにされて、山田は不登校になり、木村は転校してしまった。
そんなある日の正午の教室。

 

友美:「最近、男子でかくなってない・・・?」


葵:「週2で持ち回りで焼肉パーティー開いてるんだって!」


友美:「焼肉パーティー?」


葵:「井上とかカツアゲされてたでしょ? 新聞配達とかのお金全部獲られたりさ。今それがなくなって、その余ったお金出し合って肉とか食材みんなで買って、当番制で各家を順番にパーティー会場にしてるんだって。この前なんか井上ん家に12人だってよ!」


友美:「何やってんだろ? 親とか怒らないの?」


葵:「多少迷惑してるんじゃない? でも、友達はたくさんできるは、以前とは比べ物にならないくらい明るくなるは、宿題とかみんなでやるから、あと塾の答案コピーとかね、成績めちゃ上がってるでしょ。うちのママ、ママ友から聞いてるらしいんだけど、「なんか自慢じゃない?」って羨ましがってたから・・」


友美:「でも、なんで焼肉?」


葵:「ふーつぃんみたいに体大きくしたいんだって! ふーつぃんに大きくなる方法聞いたら、高タンパクの食事とか、ストレッチとか、なんかほらみんな腕立て50回できただの、70回達成!だの言ってるでしょ。あれほとんどふーつぃんとSNS情報だって!」


友美:「目指せ、ふーつぃんか・・・」


葵:「おかげでうちらも安全・安心ってとこ! この前まで真穂たちのグループに目付けられそうになってたじゃん、私。でもふーつぃんと話すようになってから、全く近寄ってもこなくなったんだよね。まぁ、魔除けかな~。ふふっ」


友美:「葵・・・」
 

 


⑲ 食後

 

給食後の休み時間、風地は英語の本に読みふけっていた。
隣の席でもの言いたげな友美がその横顔を眺めていた。どこか切りのいいところを探しているのだが、足を前のイスの下に伸ばしてゆったりとした姿勢のまま本を読む姿に隙は無かった。このままでは昼休みが終わってしまうと焦ったのか、唐突に友美が切り出した。

 

友美:「ふーつぃんは学級委員長ってなる気ないの?」


急に声を掛けられ、本の中の世界から戻ったばかりの風地は横を見て話しかけた友美を視認した。

 

風地:「ん~? ガラじゃないよね・・・、それ言う友美がやるべきじゃないの? 将来やりたいことがあるんだろ? いい経験じゃね?」視線は再び本に戻る。


友美:「う~ん・・・たしかにね・・・。進学するのに内申もよくなるしね・・・。でも・・・」


風地:「「なすべき者がなすべきを為す。」俺じゃなくて、キミだろ?」本を見たまま答える。


友美は少し思案して、不満げな顔を作り、風地に食って掛かった。


友美:「私が・・・。 じゃあ、ふーつぃんは何をするの?」


風地:「みんなの応援団になりたいね。」本を見たまま、少し微笑む。


してやったり!友美は意地悪そうな笑みをこぼした。


友美:「じゃあ、ふーつぃんは私が学級委員長になりたいって言ったら応援してくれる?」


風地:「ああ、できる範囲で・・・」


友美:「ふーつぃんって、約束破らないもんね!」


風地は本から視線を外し、不思議そうな顔で友美を見た。


友美:「私が学級委員長になったら、副委員長にふーつぃんを選出するからお願いね!」


風地:「あっ・・・」


後の祭りだった。
友美は勝ち誇った顔でうれしそうに風地を見ていた。

 

すぐ隣りの窓辺の席で井上は外を眺めていた。というより、必死に肩が揺れるのを堪えていたのである。グラウンドを眺めていたのではない。何か興味の引くものを必死に探していたのである。堪えれば堪えるほど、笑いがこみ上げてきて肩が震えそうになる。後ろで風地がこっちを見ているかもしれない。聞こえてない風を装おうとして必死だった。
危険人として父兄の間に悪評が流され、暴力転校生としてレッテルを貼られている不良。その彼の実態がこれなのである。噂と実態との乖離。いけない。考えると肩が震える。

 

 

 

⑳ 一歩

 

昼休みも終わりに近づき、井上は理科室の準備当番に向かった。教室を出ると、忍耐の苦役から解放されて大きく深呼吸をした。


「井上君!」廊下を歩き出そうとしたその時、ふいに後ろから声を掛けられた。振り返ると同じクラスの平井智子が微笑みかけている。


智子:「井上君、メアド交換しない?」


井上は驚いた。女子から声をかけられたことなど無い。もちろんメールのやりとりなどなおさら。


井上:「スマホ家だから。今度登録するよ・・・」


智子:「これっ!」


智子はアドレスを書いた単語帳のリーフを差し出した。


井上:「あ、わりぃ・・・」


井上は周りをちょっとみて、すぐにポケットにしまった。


井上:「あ・・ じゃあ」


井上は無愛想にそれでいて少し恥ずかしそうに背を向け歩き出した。

 

 

ほの暗い午後の廊下を井上は歩いてゆく。智子はリーフを受け取ってくれた安堵感でその姿を眺めていた。


智子はハッとなった。一瞬、井上が草原を一人で歩いていくような感覚に囚われたからだ。
幾多の困難が待ち受けているかもしれない草原を、以前とは比べ物にならないくらい逞しくなった背中で悠々と歩いてゆく。遠ざかっていく・・・ そんな感覚。


「あ、だめなんだ・・・」智子は思った。私は今のここに立ち止まっている。井上は自らの意思で、足で前に進み始めた。どんどん前に進む、離れてゆく・・・
「そうか・・・」智子はつぶやいた。井上に近づくには自分も前に進む勇気を持たないと。何ができるのだろう? でも、まずは前に進んでみよう。


そう思った途端、恐怖という鎖が心を縛りあげた。込み上げてくる。息苦しい・・・また過呼吸
指先が冷たくジンジンしだす。手が震える。足が竦む。


「やる、できるんだ・・・」
智子は唇をかみ締めた。
震える右足を上げ、少し前のタイルを踏みしめた。初めての一歩。
「できた・・・」
智子は心の中で叫んだ。

 

ふと前を見たとき、廊下の角を曲がる井上が頷いたように見えた。

 

 

 

~ 2022年07月15日 著 ~

 

 

 

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